馬の汗はなぜ白く泡立つ?ラセリンの正体と体温調節、パドックでの見分け方を徹底解説【2026年版】
競馬場のパドックや乗馬クラブで、馬の首元や胸、脚の付け根に白い泡がついているのを見たことはないでしょうか。大量の汗をかいているように見える馬もいれば、毛並みが濡れているだけに見える馬もいます。人間の汗とは違う、この白い泡の正体は何なのでしょうか。
馬の汗が白く泡立つ主な理由は、汗に含まれる「ラセリン(latherin)」というタンパク質の界面活性作用にあります。泡立ちは単なる見た目の特徴ではなく、毛に覆われた馬の体から熱を逃がす仕組みとも関係しています。一方、競馬のパドックで大量に汗をかいている場合は、暑さや運動による体温上昇だけでなく、緊張や興奮が影響している可能性もあります。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 白い泡の正体:汗そのものが白いのではなく、ラセリンの界面活性作用などによって生じた細かな泡が白く見えます。
- 大量に汗をかく理由:馬は運動で発生した熱を逃がすために大量の汗を分泌し、蒸発によって体温を調節します。暑さや緊張も発汗に影響します。
- パドックでの見分け方:白い泡の量だけで体調や勝敗を判断するのは早計です。発汗する場所、歩き方、呼吸、落ち着き、気温などを総合的に観察することが大切です。
【まず基本】馬の汗の仕組みとは?大量に汗をかく理由を解説
馬の汗を理解するうえで最初に押さえたいのは、発汗が体温調節に欠かせない生理機能だという点です。馬は走行中に大量の熱を発生させます。その熱を体内にため込まないため、皮膚から汗を分泌し、体表で蒸発させることで熱を外へ逃がしています。
汗が蒸発すると体温が下がる
汗による冷却の仕組みは、水が蒸発するときに周囲から熱を奪う現象に基づいています。皮膚の表面に広がった汗が水蒸気になるとき、馬の体から熱エネルギーが持ち去られます。
馬は筋肉を使って走る際に大きな熱負荷を受けるため、発汗による冷却が特に重要です。2023年に公表された馬の暑熱ストレスに関する文献レビューでも、運動時の馬は発汗による蒸発を主要な放熱手段として利用すると整理されています。
ただし、汗をかけば必ず効率よく体温が下がるわけではありません。湿度が高い環境では汗が蒸発しにくく、体表から汗が流れ落ちても、蒸発による冷却効果は十分に得られないことがあります。
馬が大量に汗をかくのは、熱を逃がす必要があるから
馬の発汗量が多くなる主な要因は、次のとおりです。
- 運動によって筋肉から大量の熱が発生している
- 気温が高く、周囲の環境から熱を受けやすい
- 湿度が高く、汗が蒸発しにくい
- 緊張や興奮によって発汗反応が強まっている
- 運動量や体力、暑熱環境への順応などの条件が異なる
このように、馬の汗の量は運動だけでなく、周囲の環境や精神状態にも左右されます。大量の汗は体温調節が働いている表れである一方、発汗が続けば水分や電解質も失われます。発汗量だけで健康状態を決めつけないことが重要です。
【白い泡の正体】馬の汗はなぜ白く泡立つ?ラセリンの働きとは
馬の汗が白く見える理由は、汗自体が白い液体だからではありません。汗が体表で泡立ち、細かな気泡が集まることで白く見えるのです。その泡立ちに関係しているのが、ラセリンと呼ばれるタンパク質です。
ラセリンは石けんに似た働きをするタンパク質
ラセリンは、馬の汗や唾液に含まれる、表面活性作用を持つタンパク質です。水の表面張力を低下させ、毛の表面を濡らしやすくする働きがあります。
馬の毛には、体表を保護する油分などが存在します。水分だけでは毛の表面になじみにくい場合がありますが、ラセリンが働くことで汗が毛に広がりやすくなり、蒸発による冷却を助けます。
この性質は、石けんや洗剤に含まれる界面活性成分の働きと共通しています。ただし、ラセリンは石けんそのものでも、人工的に加えられた洗剤成分でもありません。馬が自ら分泌する天然のタンパク質です。
2009年に科学誌『PLOS ONE』で公表された研究では、ラセリンが低濃度でも水の表面張力を大きく低下させることが示されました。研究者らは、毛に覆われた馬の体表へ汗を広げ、蒸発による放熱を助ける働きがあると考察しています。
また、Horse Fairが2023年2月17日に掲載した馬の豆知識の記事でも、馬の汗が白く見える理由と、ラセリンの界面活性作用が紹介されています。白い泡は、馬の体温調節に関係する仕組みを理解するうえで重要な特徴です。
泡はどのようにして生まれるのか
ラセリンの界面活性作用によって泡ができやすくなり、運動中の体の動きや、皮膚と毛、馬具などが触れ合う際の摩擦によって、細かな気泡が生まれます。泡が多数集まると光がさまざまな方向へ散乱するため、白く見えます。
首元、胸、腹部、後肢の内側、馬具が触れる部分などで泡が目立つことがあるのは、汗が分泌されるだけでなく、摩擦や接触が生じるためです。
ここで注意したいのは、泡立ちそのものが体温を下げる魔法の仕組みではないことです。ラセリンの主要な役割として考えられているのは、汗を毛に広げて蒸発しやすくすることです。泡は、その界面活性作用に伴って生じる現象と捉えると理解しやすくなります。
白い泡はミネラルが原因という説は正しい?
馬の汗にはナトリウム、塩化物、カリウム、カルシウムなどの電解質が含まれています。しかし、これらのミネラルが白い泡の主な原因だと説明するのは正確ではありません。
新鮮な汗が白く泡立つ現象と、汗が乾いた後に白っぽい塩分の跡が残る現象は区別する必要があります。前者にはラセリンの界面活性作用による泡立ちが関係し、後者には汗に含まれる塩類が関係します。
つまり、白い泡を見たからといって、特定のミネラルが過剰に含まれていると判断することはできません。泡の色だけで栄養状態や脱水の程度を判定することも困難です。
【人間との違い】馬の汗腺とミネラル成分を比較
馬と人間はどちらも汗をかいて体温を調節しますが、汗腺の特徴や汗の組成には違いがあります。馬の汗を理解するには、汗腺の種類だけでなく、汗に含まれる電解質やタンパク質にも目を向ける必要があります。
馬はアポクリン腺、人間はエクリン腺が中心
馬の汗腺は主にアポクリン型です。人間にもアポクリン腺はありますが、全身の体温調節に使われる汗の大部分はエクリン腺から分泌されます。
人間のエクリン腺は、手のひらや足の裏を含め、広い範囲の皮膚に分布しています。一方、馬では毛包に関連した汗腺から分泌される汗が、毛に覆われた体表で効率よく広がることが重要です。ラセリンは、この違いを理解するうえで特徴的な成分です。
汗腺の構造が異なるからといって、人間は暑さ、馬は運動にしか反応しないという意味ではありません。どちらも運動や気温の変化に応じて発汗しますが、馬では運動時の熱放散に大量の発汗が重要な役割を担っています。
馬の汗に含まれる電解質は多い
MSD獣医マニュアルが紹介する馬の汗の推定組成では、汗1リットル当たりに失われる主な電解質は、ナトリウム約3.1グラム、塩化物約5.3グラム、カリウム約1.6グラム、カルシウム約0.12グラムとされています。実際の組成は個体や環境などによって変わりますが、発汗に伴って水分だけでなく電解質も失われることがわかります。
| 比較項目 | 馬 | 人間 |
|---|---|---|
| 体温調節に関わる主な汗腺 | アポクリン型 | エクリン型 |
| 汗の主な役割 | 運動などで生じた熱を逃がす | 暑さや運動による体温上昇を抑える |
| 汗の特徴 | 電解質が多く、ラセリンを含む | 主に水分と電解質からなり、ラセリンは通常含まれない |
| ナトリウムの損失量 | 約3.1g/L(推定値) | 発汗量や個人差によって変わる |
| 白い泡 | ラセリンの界面活性作用などで生じる | 馬の汗に見られるラセリン由来の泡立ちは起こらない |
この比較からわかるのは、馬の汗が単なる水分ではないということです。大量に汗をかいた馬では、体内の水分と電解質のバランスが崩れるおそれがあります。
なお、表のナトリウムの数値は馬の汗の推定値であり、すべての馬に当てはまる固定値ではありません。発汗量や汗の組成は運動強度、環境、個体差などに左右されます。電解質の補給が必要かどうかは、飼養管理や獣医師の判断に沿って考えるべきです。

【競馬のパドック】馬の汗の見分け方と白い泡の観察ポイント
競馬のパドックでは、馬の歩き方や表情、毛並み、発汗状態などを観察できます。JRAの初心者向け資料でも、大量の発汗や落ち着きのない動きは、レース前に興奮している「イレ込み」の手がかりとして紹介されています。
ただし、発汗が多い馬をすべて不調と判断するのは適切ではありません。気温や湿度、パドックに出てからの経過時間、馬の個性、輸送や運動による影響など、複数の要因を考える必要があります。
白い泡が出やすい場所を確認する
パドックで発汗を観察するときは、まず泡がどこに見られるかを確認します。
- 首元や胸:汗が毛に広がり、運動や体の動きによって泡立っている場合があります。
- 腹部や後肢の内側:皮膚や毛が触れ合うことによる摩擦が、泡立ちに影響する場合があります。
- 馬具が触れる部分:接触や摩擦によって泡が目立つことがあります。
- 体全体が濡れている場合:広範囲に汗をかいている可能性があります。気温や呼吸、動きなども併せて観察します。
泡が一部に限られているのか、体全体に広がっているのかを見比べるだけでも、観察の精度は上がります。ただし、泡の位置だけで発汗の原因を特定することはできません。
暑さによる汗と緊張による汗をどう見分ける?
暑さによる発汗では、気温や湿度、運動による熱負荷が関係します。一方、緊張や興奮による発汗では、周囲の環境や精神的な刺激が影響している可能性があります。実際には両方が重なることも珍しくありません。
競馬場では、パドックに出るまでの輸送や周囲の音、人の多さ、レース前の興奮なども馬の状態に影響し得ます。そのため、白い泡だけを見て「暑さが原因」「緊張が原因」と断定することはできません。
次のような点を一緒に確認すると、発汗の様子をより具体的に捉えられます。
- 汗が一部分に集中しているか、全身に広がっているか
- 歩行が滑らかで、一定のリズムを保っているか
- 落ち着いて歩いているか、何度も暴れたり引っ張ったりしているか
- 呼吸が極端に速く見えないか
- 周囲の馬と比べて発汗が目立つか
- 気温や湿度が高く、暑さの影響を受けやすい状況か
この観察方法は、競走馬の状態を考える材料にはなりますが、獣医学的な診断の代わりにはなりません。馬ごとの普段の様子を知ることが難しい一般の観客にとっては、特に慎重な判断が求められます。
【暑さと緊張】馬の汗と体調変化を見極めるための注意点
発汗は正常な体温調節反応ですが、極端な発汗や、反対に暑い環境で汗がほとんど出ない状態には注意が必要です。馬の汗を観察するときは、白い泡が出ているかどうかだけでなく、体温調節がうまく機能しているかという視点が欠かせません。
大量の汗が必ずしも危険というわけではない
運動直後や暑い日に汗をかくこと自体は、馬にとって自然な反応です。十分に運動した馬で汗が目立つ場合も、汗の量だけで異常とは判断できません。
一方、発汗が非常に多く、呼吸が荒い、動きが鈍い、ふらつく、ぐったりしているなどの変化が重なっている場合は、暑熱ストレスや脱水などを疑う必要があります。馬の暑熱管理に関する米ミネソタ大学エクステンションの解説でも、大量の発汗、呼吸数の増加、元気消失、脱水などが熱ストレスの兆候として挙げられています。
また、汗が大量に流れ落ちているからといって、十分に体を冷やせているとは限りません。湿度が高いと汗の蒸発効率が落ち、体内に熱が残る可能性があります。
汗をかかない馬にも注意が必要
見落としたくないのが、暑い環境や運動後にも十分に汗をかけない状態です。馬には無汗症(anhidrosis)と呼ばれる、発汗能力が低下する状態があります。
無汗症の馬は、体温が上昇しても十分な汗を分泌できず、呼吸が速くなる、運動後に回復しにくい、元気や食欲が低下するといった変化が見られることがあります。暑いのに汗をかいていないから快適なのだと判断するのは危険です。
発汗の異常や熱中症が疑われる場合は、馬を運動から外し、日陰や風通しのよい場所で冷却し、速やかに獣医師へ相談する必要があります。馬の管理者は、水分や電解質の補給も含め、個体の状態に応じた対応を取ることが重要です。

【プロの結論】馬の汗は白い泡の量よりも全身のサインで判断する
馬の汗を観察する際に最も大切なのは、白い泡を単独の評価基準にしないことです。ラセリンによる泡立ちは馬の体温調節に関係する生理現象ですが、泡の量と健康状態、競走能力、レース結果の間に単純な対応関係があるわけではありません。
競馬のパドックで馬の状態を見たい場合は、次の3つの視点を意識すると、発汗の意味を考えやすくなります。
- 環境:気温、湿度、日差し、パドックに出てからの時間を考える。
- 発汗:泡の位置、広がり方、体全体の濡れ具合を確認する。
- 全身の様子:歩き方、落ち着き、呼吸、動きの滑らかさを併せて観察する。
たとえば、白い泡が見られても、歩行が安定していて落ち着いている馬と、大量の汗に加えて呼吸が荒く、動きにも異変がある馬とでは、観察上の意味が異なります。後者はより慎重に状態を考える必要がありますが、一般の観客が外見だけで病気や体調不良を確定することはできません。
また、発汗の多さを見て直ちに馬券の評価を下げたり、逆に汗が少ないことを好材料としたりするのも避けたい判断です。JRAの初心者向け資料が示すように、発汗はレース前の気配を知る手がかりの一つですが、歩行や気性などと併せて捉える必要があります。
馬の汗を正しく理解することは、競馬の観察を深めるだけでなく、乗馬や飼養管理における暑熱対策にもつながります。白い泡の正体を知り、汗の仕組みと体調変化を切り分けて考えることが、馬をより適切に理解する第一歩です。
【馬の汗】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:馬の汗はなぜ白く泡立つのですか?
A1:汗に含まれるラセリンというタンパク質が水の表面張力を低下させ、汗を毛に広げやすくします。その作用に加え、体の動きや摩擦によって細かな気泡が生まれ、泡が白く見えます。
Q2:馬の汗に含まれるラセリンは石けんなのですか?
A2:いいえ。ラセリンは馬の汗や唾液に含まれる天然のタンパク質です。石けんのような界面活性作用を持ちますが、石けんそのものではありません。
Q3:競馬のパドックで白い泡が多い馬は不調なのでしょうか?
A3:白い泡が多いという理由だけでは不調と判断できません。暑さ、運動、緊張、摩擦など複数の要因が関係するため、歩き方や呼吸、落ち着き、発汗の広がり方などを総合的に観察することが大切です。
まとめ:馬の汗の仕組みを知り、体調を見極める判断基準
馬の汗が白く泡立つ主な理由は、汗に含まれるラセリンの界面活性作用です。ラセリンは汗を毛に広げやすくし、蒸発による体温調節を助けます。白い泡はその作用に伴って生じる現象であり、汗に含まれるミネラルだけが泡の原因というわけではありません。
馬は運動や暑さによって大量の汗をかきますが、緊張や興奮も発汗に影響します。反対に、暑い環境で汗を十分にかけない状態にも注意が必要です。発汗量だけで体調や競走能力を判断せず、環境、汗の状態、呼吸、歩行、行動を組み合わせて観察することが重要です。
次に競馬のパドックで白い泡を見かけたら、まずは「なぜ泡立つのか」という仕組みを思い出してみてください。見た目だけで良し悪しを決めるのではなく、馬の体温調節と全身の様子に目を向けることで、馬への理解はより深まります。 (出典: 馬 の 汗(Yahoo!ニュース))